【注意】スタッフが提示した「テーマ」に対してあくまで「個人の感覚」を自由に語っていただいたもので、「他人へのアドバイス」や「お勧め」では一切ありません。感覚の話なので抽象的な表現もありますが、余分な解釈を加えず出来るだけご本人の表現そのままを引用しています。


外には見えにくいプロ演奏家のイメージや考え方。
何かヒントになる事があるかもしれません。
第一回目のシリーズは大村友樹さんにお話を伺います。


2006年07月18日 「舞い上がってしまう」対策について
2006年07月18日 響きをイメージする
2006年07月18日 暗譜と記憶力
2006年06月26日 積み重ねる努力について
2006年06月26日 スランプのこと

■ 「舞い上がってしまう」対策について
効果があるのはやはり場数に勝るものはないと思います。僕は舞い上がる現象がなくなってきたのはプロになってからかな。ただその場数の分だけ経験値は増えていくわけだからその反省点を次の演奏に活かしていく事が大きなポイントだと思います。そうするとだんだん開き直りというかやれるようになっていくのでしょうかね。でも行き過ぎて冷めてしまうのは緊張するよりもっといけないと思います。演奏するのに高揚してなかったら音楽そのものが駄目になってしまいますから。

試験とかコンクールやオーディションは慣れとは別だと思います。試される場ですから、やはり音楽以前の事も考えます。すると真っ白になりますね。そうなると「度胸」という話になってくるのかな。「度胸」は性格的な要素もあると思いますので場数や経験値といっても個人差は出てくる。

特にトレーニングとかしているわけではないですが、ステージに上がる前は体が柔軟さを保つような行動はしています。体が硬直してたら舞い上がる以前に演奏出来ないですからね。例えば息は吐くほうを心がける。吸うほうの意識が強いと体も硬く過度な緊張につながる。わざとため息をついたりしゃきっとせずぐんにゃりしてたりします。ただ先ほど言ったように緊張は感じているほうが上手くいくように思う。ゲネプロ前は緊張、でも終わったら食事のことしか頭にない(笑)。つまりリラックスしているわけです。本番30分前くらいから次第に緊張感が高まってきますね。でも体はぐんにゃりさせてる。一方では気持ちの高揚は保ちつつというバランスでしょうか。この質問はよく受けるので悩まれている方は多いのでしょうね。文字にするのは難しいですが、是非参考になれば嬉しいです。

以上で大村友樹さんのシリーズを終わります。
次回からは相澤政宏さんのシリーズをお送りする予定です。

■ 響きをイメージする
吹く動作そのものについては前に話した息の量とも関係あるのですが、音によってアンブシュアや吹き方を変えないで、というか大げさにしないで低音から高音まで出せるように、という事です。

勿論厳密にはその音固有の、または低音・高音を出すアンブシュアはあるでしょう。演奏で特定の音を出す時アンブシュアや吹き方は気にします。でも極端に変える事なくそのまま吹いていけるつもりで練習します。

響きについては自分の楽器が振動してるとかそういう感覚は気にしたことはないです。それより演奏する空間全体が満たされているかどうか、それは狭い空間であっても同じです。遠くとか近くとか楽器本体とか特定の箇所で音が聞こえているというより、空間全体が満たされている感覚ってあるでしょう?凄い人の演奏ってそれがあって本当に圧倒されます。

重要なのは空間全体を例えばピアニッシモであっても満たせるかどうかだと思います。

次回は「舞い上がり対策」です。

■ 暗譜と記憶力
暗譜と記憶力が関係するかどうかですか。どうでしょうか。分からないです。僕は初見演奏が苦手なので難しいところは覚えて吹く、という習慣が身についています。長らくついていた先生方をただ真似して吹いていたからだと思いますがはじめは譜面が読めず苦労しました。その後ソルフェージュを徹底的に叩き込まれて読めるようになりましたが。

楽譜が読める、と言ったのは体が自然に音楽的に演奏できる状態を意味しています。体が覚えるまで練習を繰り返し、結果として暗譜という状態になっているという感じです。一度そこまでやると時間がたってもその箇所はいつでも引き出せるようにはなってます。

といって全曲まるごと覚えているわけではありません。難しい箇所はそこまで覚えないと僕は吹けないという事です。だからコンサートで曲があったとして、譜面にかじりついて吹いているように見えるところは読みながら吹けるところ、逆に譜面にかじりつかない所は難しい箇所なので覚えて吹いているのでそう見えるわけです。外から見るとあべこべのイメージがあるかもしれませんが。

現代曲はその覚える工程が難しいですね。尾高尚忠さん作曲のコンチェルトでソロを吹く機会がありましたが、これは身体が覚えないと吹けない曲ですね。でも素敵な作品で覚えていく行程を楽しめます。嫌いな曲だったら覚えるのが苦痛だなぁ....こんな事は言わないほうがいいかな(笑)。

次回は「響きのイメージ」です。

■ 積み重ねる努力について
例えば研究者がどうしても解決できない難しい問題があるとする。何回も条件を変えて実験しては失敗を重ねます。どんなに努力しても解決しない。ところが風呂に入ったりして関係ないことしてる時にふとひらめいたりするらしいです。フルートでも難しい箇所を何度繰り返し練習してもできない事がある。ところが久しぶりにその箇所を吹いてみると出来るなんて経験があります。頭を切り替えてやるとなにかほぐれてポンと出てくるんでしょうかね。また他の練習をするうちに知らないうちに全体的なレベルもやはり成長して、出来るようになるのかも知れません。

そうは言っても難しくて出来ない箇所はどうしてかな、といつも考えています。若いときはこの「いつも」というのが苦痛でした。 が、今は大丈夫になりました。慣れなのかその過程を楽しむようになったのか分かりませんが。以前サッカー選手の中村俊輔さんがストレス発散手段について聞かれたとき特に何もなく、プレーが上手くいかないときはいつもその出来ない原因ばかり考えている、と答えているのを見て、彼ほどの人でも悩んで努力する事が習慣なのかと気持ちが軽くなりました。話はかわりますが僕はスポーツ選手のインタビューを見るのが好きなんですよ、松井選手とかイチローとか。彼らのコメントには参考になる事が多いですね。

次回は「暗譜と記憶力」です。

■ スランプのこと
勿論ありますよ。何をやっても駄目で解決方法も見えないですよね。

練習では出来ない箇所は集中的にやりますが、例えば3時間の練習時間があるとしたらそればかり3時間続けるわけではありません。人間の成長する力というものがあって時間が解決してくれる事もあります。本当にはまってしまったら練習は取りあえずしない。もっとも本番があるから練習から完全に離れることは出来ませんが、じっと堪えて信じて時を待つ、という姿勢も大事だと思います。

とにかく1つの事にひっかかって根をつめるより時を空けた方が良い結果をもたらすことだってある、という事です。例えば昔身につけた技術はそっくり全部忘れてしまうわけではなく学習経験は生きている。医学的にもその効果は証明されているらしい。だから勿論苦手な箇所を繰り返し練習するプロセスは大事だけど短期的に完成しなくても気にしなくてよいと思うんです。他にもやらなきゃいけない練習は多いですしまずは焦らず継続して積み重ねていく姿勢が大事ではないかと思います。

次回は「積み重ね」です。

■ 演奏の確認ポイントについて
吹いている息の量かな。大体吹きすぎている事が多いです。

そうしたらなぜ吹きすぎているのかを確認します。体が強張っていないか、肩が上がって重心が上にないか、というところから入って、例えば顎の位置とか頭部管に対する角度とかそういった細かい部分を見ていきます。

局部的に重要なのは頭部管というか唄口と息の方向の関係。この二つの相対関係が良い事、最低条件であり、理想の状態を探り続ける究極条件でもあります。以上はもちろん呼吸は正しく行っていることが前提ですが。

いわゆる音作りといわれる作業は大体1時間くらい、リハがあるとしたら少なくともその1時間前には会場入りして笛を吹き始めるということです。ただこれは日常の練習でもそうですが別に1時間単音を吹いているわけではなくて曲としての流れが出来るようにもっていく作業です。単音が綺麗でも曲が成立する事が目的ですから。

フリーの日の練習は平均3時間くらいですね。今言ったような内容から始めて勿論本番で使う曲が提供する音楽になるわけですから、その練習もします。いわゆるソノリテの楽譜どおりにシの音から半音階づつ下がる方法にこだわってはいません。特に気にしたことはないけど僕の場合はソ(低音)が多いかな。ある程度中間の管長の音から始めることが多いように思います。それより曲の流れにそってよい音楽が成立する事が大事なので。」

次回は「スランプ」です。

■ 演奏の振返りをする時
僕の場合は殆ど良く出来た、と思ったことはないです。いつもどうしたら直るか、ばかり考えていますね。でも本番ではお金を払って聴きに来てくださるお客様がいるわけですから、品質の悪い音楽を提供するわけにはいかない。どんな状況でも酷い演奏だと思われない努力はしています。

最低限の演奏品質については、これは皆さん音大をはじめ、プロの演奏家になるための専門教育を受けトレーニングを積んで来ているわけです。極端な例ですが、物凄く慌てて演奏が止まってしまったら、それは提供できる品質ではないですよね。演奏を続ける力とかそういった事は専門教育やトレーニングでカバーされていると思います。でも最後まで続く事と良い演奏・音楽とは関係ありませんが。

私の場合、ここはこうだったなとか反省ばかりですが、聴衆の方々までそのまま感じているのかどうかは分からないですし、聴いて酷いなという事が無いように努力して吹く、という妥協ではあるのですがそれを出来るだけ高いレベルにもっていく、という事でしょうか。

でも満足した演奏が出来ずに悩むのは当たり前の事というか恐らく今後も満足する事ってないですね。大事なのはどうやったらもっと良くなるか。もし僕が自分の演奏に本当に満足したとしたら演奏家をやめてしまうかも知れない。なぜなら恐らくそれは目標を達成したというより自分を見失ってしまった、という事だと思いますしそういった気持ちでは続けるモチベーションが生まれないですからね。

次回は「気にするポイント」です。